「博多 一風堂」は1985年の創業以来、博多のラーメンの代表格であり、ラーメン業界全体の牽引役としても活躍してきた。現在では国内54店舗、海外3店舗にまで拡大。どの店も連日、行列ができるほどの繁盛ぶりだ。日本、そして海外でも愛され続ける理由を、力の源カンパニー(福岡市中央区)の代表取締役・河原成美氏に聞いた。
――7月23日に出店した「名古屋栄ブロッサ店」はいかがですか?
おかげさまで、オープン初日からたくさんのお客様で賑わっています。名古屋は今回で3店舗目ですが、正直に言いますと、もう少し早く出店したかった。名古屋には熱烈なファンの方が大勢いてくださいますからね。ただ、力不足で出店が遅れていたのです。現在は企業としての体力も増し、出店スピードも大幅にアップしています。名古屋はこれまで同様、最重点エリアのひとつですので、今後も出店に力を入れます。「名古屋栄ブロッサ店」は名古屋のみなさまに「一風堂の今」を100%表現する店と位置づけ、最高のパフォーマンスを継続できるように、との思いをスタッフ全員と共有しています。
――今回出店された「名古屋栄ブロッサ店」は、他の店舗と比べてカラフルですね。
デザインは常に進化させていますから、一つとして同じ店舗はありません。そもそも一風堂は名古屋を拠点として全国的にも名高い神谷デザインに店舗設計を依頼するなど、店舗デザインには以前から力を入れてきました。本町通り店はとくに神谷さんのセンスが色濃く表現されています。ただし、最近はインパクトはもちろんですが、機能性を重視したデザインが多くなっています。飲食店はお客様に快適に過ごしていただくのが最大の目的です。たとえば以前はトイレのデザインに凝っていたのですが、4年ほど前から「トイレは心地よさと清潔感が一番」というところに立ち返りました。どうすれば一風堂のラーメンを美味しく食べていただけるか。すべてのデザインはその目的の達成のために考えられるべきです。「名古屋栄ブロッサ店」は今の一風堂が求めるデザインを具現化していると言えます。
――今のラーメン業界を全体的に見て感じることは?
意外と新しい動きが出てきていないな、というのが実感です。たとえば「つけ麺ブーム」と言われてずいぶん時間が経っていますが、新規出店する店はその「つけ麺」を前面に打ち出す店が多い。ブームの後追いという感が否めません。また、有名店に影響を受けた、いわゆる「インスパイア系」というのも多い。二郎インスパイア、家系インスパイア、世田谷インスパイア、武蔵インスパイアなど、オリジナリティが高そうに見えて、実は失われてきているのではないか、と危惧しています。この傾向はファッション業界と似ています。だんだんおしゃれになってきているし、派手にもなっている。一昔前の人が見たら個性的に見えるんだけど、実はみんな横一列だからオリジナリティは薄い。そうした時代の流れには反するかもしれないけれど、個人的にはもっと地に足のついたラーメン店が出現することを望んでいます。今は "魚介豚骨"だとか"超濃厚豚骨"といったように、「料理としてのおいしさを追求する」という王道から外れたものが、あまりにも増えています。新しく参入する人には、「いったい自分たちのオリジナリティとは何なのか」をあらためて自問してほしいと思います。このままだとラーメン業界自体がつまんないものになってしまうんじゃないか、と危機感を持っています。
――ラーメン業界の没個性化に、テレビなどのメディアは影響していますか?
多分にあると思います。一風堂はテレビのバラエティ番組をはじめ、多くのメディアに取り上げられることで知名度を高めました。その意味ではとても感謝していますし、メディアの力の大きさは実感しています。ただ、ここ7年ほどは出演する番組をかなり限定させてもらっています。というのも、「ラーメンは遊び」といった扱いが増えているからです。何かとんでもないことをやらせておもしろがるような風潮です。また、「ラーメン=儲かる」という図式だけで語ろうとするケースもあります。「こうした流れに乗ってはいけない。たちまち消費されてしまう」と自分に言い聞かせています。振り返れば90年代、テレビの制作側は「なんとかラーメンの魅力を伝えたい」と真剣でした。だから店の成り立ちやコンセプトにスポットを当ててくれた。メディアにも、店主にも「ラーメンをなんとかメジャーにしよう」という共通の思いがあったんです。一風堂は32歳の時に始めたのですが、その頃はラーメン店に女性客はほとんどいなかった。だからラーメン店の地位向上を目指したんです。「ラーメン店主は男らしいし、かっこいいと思いませんか?」と訴えていったんです。もし、ぼくが今30代で、飲食店を作るとしたら、おそらくラーメン店は選ばないでしょう。もっとマイナーの業態を発掘します。いや、そもそも日本にいないような気もしますね(笑)。ともあれ、若い世代には「店を通して何を表現したいのか」をもう少し深く考えてほしい。ラーメン業界にクリエイティビティとアーティステックなセンスを再び注ぎ込んでほしいと願っています。
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