愛知万博と同時にオフィスビルが増加し急速な発展を遂げている名駅三丁目エリア。今や飲食店が立ち並び名古屋の激戦区となっている。 店名の由来にもなっている階段を上がると、食通を唸らさせるビストロ・エスカリエ(代表取締役 齋場直樹氏)に出会える。店はビルの二階にあり、大きな看板が掲げられているものの、まさに知る人ぞ知る名店と言うべき立地だ。 堅苦しいフレンチレストランではなく、気軽にフレンチを楽しめるビストロは名古屋ではまだまだ浸透していない。TVの影響もあり、逆に“ビストロ=高級”という認識を持っている人さえいるのが名古屋の現状だ。「東京のビストロでは、男性も一人で来て新聞を読みながら食事をする。そんな気軽な店をつくりたかった」と語る齋場氏。常連客たちの店の使い方は、そんな理想に近づいているようで一人で訪れる姿も多い。 気軽に楽しめるビストロというものの、提供される料理の裏側に驚く。野菜は岐阜県瑞浪市にある3000平米の自社農地でつくり、一年を平均して60~80%を自社で供給している。季節にもよるが、夏には20~30品目を扱い、現地には野菜を処理するセントラルキッチンもあるのだ。もちろん無農薬だが、美味しい野菜ほど虫はつく。駆除のために、焼酎にニンニク、唐辛子などを入れた液を散布するなど、口に入れても安全なものしか使用しない徹底ぶりだ。 だが、こんなことで驚いていては先には進めない。冬には自ら狩猟に出かけジビエ(狩猟による鳥獣肉)を提供する。解体までの行程全てをスタッフ全員で行うというから驚かずにはいられない。川魚に関しても同様で、イワナやヤマメも自分たちで釣りに行く。しかも沢を上がって行き捕る本物の天然だ。また自分たちが行けない場合も猟友会の仲間たちが捕って来てくれるという。11月~2月までの冬の猟が終わった後、山へ入るのが好きな仲間たちは春には山菜、夏には釣りにと年中何かを店に提供してくれているという。付け合わせのクレソンさえも天然というから一皿まるごと余すところの無い、その季節にしか味わえない山の食材なのだ。 ワインも常時10種がグラスで提供されており、良心的な価格設定も魅力。もちろんボトルワインも豊富に取り揃えられている。 本来なら店づくりに関しても、ここで皆さんにお伝えしたが、あえてそこは“本場ビストロの雰囲気が楽しめる”というだけにしておこうと思う。気になったら直接、店を訪ねて頂きたい。 今後に関しても「20坪以上の店を出そうとは思わない」と語る齋場氏。 美味しい料理や空間を提供するその貪欲さを貫いて欲しい。
(取材=伏屋 みかこ)