2008年9月にオープンしたスペインバル「DOS(店主 西村英治氏)」。大通りから一本入った、堀川沿いのひっそりした場所に一際賑わいのある店、それが目印だ。 西村氏が学生時代、スペインに留学した際の様々な出会いが同店オープンのキッカケになっているという。 当時はスペインに留学する日本人は少なく、スペインにある語学学校へ通っていたのは、たった二人。その一人が西村氏、もう一人が現在、大阪で人気のスペインバルを営む西村氏が師匠とあおぐ人物だったのだ。 滞在中は二人でバル巡りの日々。人々の生活にとけ込み、知らない客同士がいつの間にかワインを飲み交わし、会話と食事を楽しむというバルの魅力に惚れ込んだという。 大学卒業後、サラリーマンとなった西村氏は美味しいスペイン料理を求め、週末は大阪や東京へ出かけていた。多くの店へ行き食すほど、師匠がつくるスペイン料理の美味しさに気づいたという。そんな折、「名古屋にもスペインバルをつくってくれないか」と相談すると、意外にも「自分で店を出したほうが早い」との返答。西村氏はあっさり会社を辞め、大阪の師匠が営む某有名店へ弟子入りしたのだ。 朝方まで賑わう人気店のため、7時まで働き11時にはまた店に戻るという日々。師匠は今どき珍しい本気の職人。その日、提供する料理は師匠が必ず試食し、クオリティが達していなければその場でゴミ箱行きとなるのだ。30人前の料理といえば、どのくらいコストがかかっているかは察しがつくだろう。しかし、あっさり捨てることを選択する徹底された教えのもと、西村氏は200以上のレシピを手に「DOS」をオープンさせることとなる。 オススメしたい料理はたくさんあるが、紹介しきれないので的を絞って紹介しようと思う。まず、最初にオーダーして欲しいのはパエリア。「えっ、そんな定番メニュー?」と言われるかも知れないが、このクオリティの高さは希少。 パエリアに使用されているダシは、鯛やヒラメ、香草などを10時間煮込んでとっており、魚の風味を存分に感じることができる。リピーターの多いイカ墨のパエリア(1900円/2~3人前)は、イカからとった墨で2日間かけてソースをつくり、ダシでのばしているため、よくあるこってりしただけのイカ墨パエリアとは全く違い、濃厚かつあっさりしているのが特徴だ。 また同様のソースを使用したイカの墨煮(500円)は、東京や台湾のスペイン料理店を数十件プロデュースしている某有名シェフが同店を訪れた際、あまりの美味しさに感動し、その場で西村氏を招く東京行きの新幹線チケットを手渡したという逸話のあるメニュー。 ハウスワインのマルコ リアル オメナヘ(500円)をはじめ、グラスワインは約30種が用意されており、初めからボトルを頼むのはちょっと…という客への心遣いを感じる。 バルがここ数年で増えたことにより、本来のバルに近い感覚で店に立ち寄る客も増えたという。一つの店で長く滞在するのが名古屋人の特徴だが、出がけにワインを一杯、今日の締めくくりにワインとつまみを楽しむ客も多いようだ。 西村氏に次なる店舗について聞いてみると、「もっとバルっぽいバルを出したいですね。もっとラフで生活の一部になるような店。朝食もやりたいですね。現在、ランチはやっていませんが、昼からワイン飲み放題とか、本場のバルにもっと近づけていきたい」と語る。モーニング文化のある名古屋ならではのバル使いも是非、提案して欲しいと思う。 ここ名古屋でもスペインバルが急速に増えているが、正直「ここはレストランでは?」と首を傾げたくなる店も少なくない。 今後も本来のバルの魅力を大いに伝え、朝バル・昼バル・夜バルと名古屋のバルを盛り上げるべく店舗の一つであって欲しいと願う。
(取材=伏屋みかこ)